最初に言いますがシンバルは高いです。
ドラムはスティックという「棒」でドラムに張られた「ヘッド」と呼ばれる…まあ簡単に言えば「皮」を叩きます。
皮と言っても実際は(現代では)プラスチックを加工した薄いフィルムなのですが、要するに叩きすぎで痛んだり、経年変化で音が悪くなったら、そのヘッドを新しいものに交換すれば元のいい音に戻ります。

一方、それと比較して
「本体を直接スティックで叩く」という演奏スタイルのシンバルという楽器は、金属丸出しなので手あかが付いたり、ほったらかしにするとそこから錆びたり、薄いものは割れやすく、思いっきり叩く人は余計に痛みも早く…。手に入れる際も「最高だ」と気に入って購入したのに、いざセットに組むと「アレ?」って感じな事も多くて、同じメーカー、同じ型番のモデルが一枚一枚音が違ったりするのも頻繁にあって(笑)、慎重に選ばないと最終的に買い直すことになったり・・・と、やっぱり高い買い物だと思います。

以上、シンバルに対するネガティブな見解でした。

まあ10代の後半、まだ自分の楽器を何一つ持っていなかった当時は、そんな事これっぽっちも考えていませんでしたがね。

それまでは「シンバルもスタジオによって感じが違うなあ」程度にしか考えていなかったのですが、当時参加していたハードロックバンドのリハーサルで、たまたま普段行かなかった「五反田ペンタ」というスタジオのドラムセットで演奏した瞬間に、
ハンマーで頭を殴られたような衝撃が、私の五感に走りました。

「このライドシンバル、レコードみたいな音が出る!!」

その時、その古ぼけた(シンバルのメーカー名の印刷すら消えてしまっているような)ライドシンバル(大きいシンバルです)が、信じられないようなサウンドで私に語りかけてきました。私はメンバーに思わず叫びました。

「これが欲しい、俺これ買いますよ!!」

スタジオ内は「爆笑」の渦です。同時にメンバーはかなり驚いたようでした。私のこの発言の衝撃が皆さんにお分かりいただけるか不明ですが、それまで3〜4年ほどドラムを演奏してきて、「別にスタジオにあるんだから・・・」と自分の楽器を一度も買おうと思った事のなかった人間に、一瞬にして「これが欲しい」と言わせたのです。

「Pennyちゃん、そろそろ自分の楽器買おうよ、ね。」
高級シンバルメーカーPaiste

当時メンバーは顔を合わせるたびに、私にそう言い続けていたので、私のその「意外な」発言が「爆笑」という大きなリアクションになったのでしょう。そのハードロックバンドのボーカルのS氏は元ドラマーで、(彼は何の楽器も持っていなかった私に、スネアドラムやシンバルを貸してくれていたりしたのですが)その彼の見立てで、そのシンバルがPaiste(パイステ)というメーカーのFormura 602(フォーミュラ602)という有名なスイス製の高級シンバルだという事を知りました。
602がそのスタジオにあった事実は未だ謎です。普段リハーサルスタジオにあるドラムセットは、様々な人が使う事を考え、低コストと耐久性が最も求められます。スタジオのオーナーがドラマーだったり「ドラム好き」の人であれば別ですが、普通高級シンバルなどそこにあるはずがなく(人に貸すはずがなく)、たまたまだったのだと思いますが、私にとっては非常に有意義な経験でした。

「Pennyちゃん、あのシンバル欲しいの? 高いよ。」

リハーサルの帰りに車の中で、くわえ煙草のS氏はそう私に言い、意味ありげにニヤリと笑ったのでした。

「なんの!アルバイトでも何でもして買ってやる!」
熱い気持ちのまま、次の日に楽器屋さんに行き、見積もりを取ってもらおうとしたのですが、実はこのシンバル、人気商品であるにも関わらず、廃盤(生産完了品)になっているモデルだったのです。私が前日に五反田で叩いたシンバルは、今で言うところの「ヴィンテージ」と言ったところでしょうか。結局602を手に入れる為には中古市場を探すしか無かったのです。ライドシンバルの価格、新品を購入した場合、下は15,000円程度から上は50,000円程度(買値)、と結構開きがあったりします。602のライドシンバルは、状態のいいものだと、当時でも60,000円近くはしていたと思います。

皆さんいいですか、
手入れを怠ると錆びたり、ヘタに扱うと割れたりする、金属の円盤、それも「中古」が平気で60,000円するのです。ビックリしちゃいますよね(笑)

高校を卒業したばかりの、アルバイトもしていなかった浪人生(何故かバンド活動をしていましたが…)にその金額はなかなか出せず、また、いざ買うにしても中古楽器で、今のようにインターネットも無い時代に、知っている楽器屋も2〜3件程度では、なかなか探せないものです。結局その時は残念ながら購入を断念したのです。

時は流れ、バンド活動もその当時から10年以上経過し、いろいろな事があり、シンバルも既に別のモデルを新品で揃えていて、
でもやっぱり602のサウンドが心の片隅にはしっかり残っていて…

話せば長くなるので詳細は省きますが、まあ最終的に状態のいいのを見つけて買いました(笑)
おかげで今では、あの頃聴いて感動した例の「いい音」をしょっちゅう聴く事が出来ます。些細な事ですが、わたしにとっては大きな幸せ。しかし買ったはいいものの、シンバルは最低でもライド、クラッシュ、ハイハットと3種類は必要(な事が多い)です。違うメーカーや、同じメーカーでも異なる種類を組み合わせると、音色が明らかに違ってしまうので、悲しいかな、未だに602の他のシンバルを探しているところです。(逆にワザとそれを狙う組み合わせをするドラマーもいます、それはそれでアリですね。)

ハイハットは購入したので、残るはクラッシュシンバルです。クラッシュシンバルはその名の通り、アクセントの為に
「ガシャンと叩く」事を目的としているシンバルなので、状態のいいものはなかなか残っていません。今はジルジャンという世界一古いシンバルメーカーのシンクラッシュ(薄めのクラッシュシンバル)を組み合わせて使っています。合金の素材が近いのか、音の方向は似ていますが(シンバルは薄めの方が落ち着いた音が出るのです)音量は602の方がデカイですね。まあそれも使い方、叩き方次第でしょう。

Formura 602 MEDIUM RIDE 20
パイステからこの頃出た受注生産の“トラディショナル・シリーズ”という・・・新品で1枚80,000円とかする・・・超高級シリーズが602の音に似ているとか、似ていないとか言われていますが(試奏できるショップは私の知る限り無いのです)今でもこれだけ人気の高いフォーミュラ602が、廃盤になってしまったいきさつを私は知りません。このシンバルの合金を作る時に「有害物質が出てしまう」という理由で廃盤になっただとか、その合金の配合が他のメーカーの特許に抵触したなどの、まことしやかな噂を耳にする事もありますが、事実は未だ闇の中。知っている方がいらっしゃったら、是非私にご一報ください。

うなちゃん さんから頂いたメール抜粋(2005.10.26更新)
ある日、大阪の楽器屋さんの店長さんから聞いた話ですが、602は値段が高くても根強い人気があるにもかかわらず、廃盤になった理由は602の原材料が高騰したため、このまま製造しても値上げしなければならず、それも当時の値段の倍以上になり、とてもシンバルの価格じゃなくなるからと聞きました。

しかし、原材料が倍になる材料は何か、なぜかはっきりとした要因は分かりません。
しかし、602はあまりにも割れやすくてプロ以外は気軽に使えにくいシンバルですので私個人的には耐久性の悪さもあると推測しております。

うなちゃん さん大変貴重な情報をありがとうございます。

Paiste ホームページはこちら
http://www.paiste.com/
前のページへ 一つ前のページへ 次のページへ
ARI since 2004 Copyright All Right Reserved