以前お話した通り、エレキギターもエレキベースも、アンプに突っ込まなければ「チャカチャカ」した音しかしません。キーボードはヘッドホンがあれば鍵盤を押さえる「フカフカ」とした音しかしません。壁さえしっかりした所に住んでいれば深夜でも練習できます。
しかしドラムは深夜でなくても、たとえちっぽけな練習台を叩いていても家族に「うるさい」と怒られる楽器です。誰でも自分が太鼓を叩くのは「気持ちイイ」のに、人が太鼓を練習しているのは「騒音」なのです。この楽器間の騒音レベルの違いは非常に大きい。スタジオですらドラムは普通に叩いていると、(PAにでも接続しない限り)まずメトロノームの音は聞こえません。メトロノームの性能にもよりますが、正直言って練習台を叩いていても聞こえづらい時があります。

誰でも叩く事はできる。しかしドラムは「本当にしっかりと叩けているか」を検証しづらい(検証するのが面倒くさい)楽器なのです。
私の経験上、ギターやベースの上手な人は、密室(部屋)にこもり、メトロノームと録音できるラジカセを“トモダチ”にして、延々練習した経験のある人たちです。レコードからお気に入りのギターリストのフレーズを何度も何度も聴いて、実際に同時に演奏し(例えばアンプには繋がず生音で)それを録音して本物の演奏と聴き比べる練習をしています。彼らは「憧れの奏者に近づきたい一心で練習」し、そういった練習を積んでからリハーサルスタジオに向かいます。彼らは目的がハッキリしているのです。

一方、
(叩く事そのものが楽しいので、そもそも憧れの奏者がいない人も多いくらいの)ドラマーが同じ事をやろうとすると、まず自宅では(スタジオを持っているリッチなドラマーでもない限り)不可能です。もし自宅で練習が可能だったとしても、今度はレコードを聴きながら演奏する事はできません。前述のメトロノームと同様にドラムを叩いた瞬間にレコードの音が聴こえなくなるからです。たとえヘッドホンをしたとしても今度は自分の叩いている音がよく聴こえなくなるのでそれもダメです。
解決策は自分のドラム用にマイクを立てて、それをミキサーに繋ぎ、次にステレオからミキサーを経由してレコードの音を取込み、両方の音を好きなボリュームにミックスしながら練習する事です。「レコードと同時に演奏する」というだけでもここまでの手間がかかります。皆さんはこれ準備できますか?

こういう事を実際にやるかどうかは別にしても、要するに「ミキサーやPAシステムの無い場所ではドラムを練習する事は難しい」って事なんです。また他のパートみたいに録音をして練習に活かそうと思ってら、

1.個人練習でスタジオを借り
2.自分が叩いたフレーズを録音して
3.その録音をプレイバックして検証する

という手順が必要になります。その場合ドラムが座っているポジションから、スタジオの録音機材までの距離があると、録りっぱなしにでもしない限り
リモコンが無ければ何度も立ったり座ったりを繰り返す事になります。

ちなみに録りっぱなしは練習がディープになればなるほど、たとえば「何時何分、キックに注意しながら8ビート」などと紙にでも書いておかないと、自分が何を目的にそれをやっていたのか忘れてしまう事が結構あるのであまりよくありません。
ムカ付く事にMDウォークマンなどの個人機材で録音しようとすると、ドラムの振動でMDが音飛びしたり、ヒドイ時にはストップしたりします。なのでドラムからある程度「離して設置」しなくてはならないので、自分で録音機材を持って行っても、スタジオに備え付けの機材を利用しても結局手間は同じです。時間幾らで借りている練習スタジオで、練習に付き合ってくれる友達や彼女でもいないとそういった手間のかかる作業自体にメゲてしまい、そして前述の通り「叩く事そのものが楽しい」ので、問題を解決し完成度を上げる為に叩く事は次第におざなりになり、最終的に好きなフレーズをだらだらと「目的も無く」叩く事に終始してしまいがちです。

そして残念な事に、自分が叩いたものが正しいのか(自分が頭に描いたものかどうか)という
検証をせずに「それを練習だ」と思い込む傾向が非常に強い。
彼は「だって叩けたんだから」という風に思っているのです。

彼は誤解をしています。
それは単に「叩いてみた」だけで、本当に「叩けた」とは限らないからです。

それではドラマーが上手くなるには一体どうすればいいのでしょう?

もうとっくに答えが出ています(笑)が、それは次回のお楽しみ(笑)
「練習という名のマジック」で、さらに具体的に詰めていきましょう。


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